Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
嫉妬
桃花は肺炎に近い気管支炎と診断されたが、マンションでもう一度往診を頼みきちんとした治療を受けさせた。
高熱があってぼんやりした桃花のそばで、付きっきりで看病をする。桂木も責任を感じているからか、何も言わず申請書を出してくれていた。
桂木が鍵を開けに来られなかったのは、大谷シンパの一人が桂木に“相談したい”と話を持ちかけられたからだった。
親が保証人になったせいで借金を抱え、おまけに仕事をリストラされこれからどうすれば――なんて思い詰めた顔で相談された内容は、いい加減にあしらうことなどできない。実際人事部にいる桂木だから、その内容は把握して事実だと知っている。このままだと心中と泣き崩れる相手を、どうして放っておけるだろう。
大谷がわざと“その時”を狙って桂木に相談をぶつけさせた、ということもわかるが。証拠がない以上それだけでは手が出せない。
(また、あの女のせいで桃花は命の危険に晒された……絶対に、社会的制裁を受けさせる)
倉庫の中で小さなイタズラをしてきた時の、桃花の可愛い笑顔を思い出す。オレが酸っぱいものが苦手だと知っていてくれた……それだけで胸が熱くなり、いとおしさがこみ上げる。
お返しに思わずキスをしてしまったが、あのまま押し倒したくなるのを止めるのに理性を総動員しなくてはならなかった。
けれど、今の桃花は高熱のせいで意識が朦朧としている。絶えず流れる額の汗を拭いながら、大丈夫だと彼女に言い聞かせ続けた。