Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「君は、ぬるすぎるよ。いろいろと」
ようやく寝入った桃花の部屋から出て、桂木が険のある声を出す。
いつもにこやかで優しい空気を醸し出すヤツが、これだけ地を隠さないのは珍しい。よほど腹に据えかねて、だったんだろう。 眉間にシワを刻んだ桂木は、そのままオレを睨み付けてきた。
「君は、何だかんだと理由をつけては彼女から逃げてる。きちんと話もしないでいるくせに、それでそばに置こうなんて卑怯だと思わないのか?」
「……そうだな」
桂木にこれだけお膳立てされているにも関わらず、オレは何一つ桃花に明かせていない。嫌われるのが怖くて、だなんて詭弁だ。ただ臆病でずるいだけの卑怯者。
もう、いいだろう。桃花と一緒に居られる時間はあと2ヶ月もない。嫌われようが疎まれようが、自業自得というものだ。
「……葛城のパーティが10日後にあったな」
「ああ、僕も“雅幸”も招待されてるけど……まさか、そこで言うつもり?」
「ああ」
迷いなく直ぐ様答える。あのパーティで桃花に全てを明かし、そのまま気持ちを告げようか。そう考えてると、桂木がフッと笑う気配がした。
「やっとやる気になったところで水を差すようで悪いけど……君がパーティでまた告げられなかったら、僕にも勝算はあるって思っていいよね?」
「……桂木、おまえ」
抑えぎみではあったけれど、やつが桃花に好意を抱いてるのは知ってた。遅くとも中学生の頃から。
“君がちゃんとしないなら、僕がもらうよ”
桂木の真剣な眼差しは、はっきりとそう語ってきた。