Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「お怪我はそう酷くはないですが、無茶はいけませんよ。怪我をなさってから何日経たれていらっしゃるのですか」
オレや母上の日本滞在中には市立病院に常駐し、ヴァルヌスの侍医(じい)でもある立木(たちき)に呆れられてしまった。
整形外科と内科両方を専攻している彼は、大概の診察ができるから重宝で母上お抱えの典医ではあったが、母上がヴァルヌスに嫁がれたことを機にヴァルヌスの宮内庁から正式に要請をされて、侍医の地位を与えられた。
オレがちっちゃな頃からずっとかかりつけで、桃花も雪の日の事件と今回の事件とで二度お世話になっている。それだから、桃花を全く見知らぬ他人という訳ではない。
「彼女の看病を優先なさるにしても、それだったらなぜあの時にお見せくださらなかったのですか? あなた様はヴァルヌスの王太子殿下になられるお方。将来の国王陛下であらせられるのですよ? その御体はお一人のものでないご自覚はおありですか?」
立木の怒りっぷりも無理はないと言えるだろう。捻挫をして1週間は経ってから、やっと診せに来たのだから。
すっかり白髪となりずいぶんとシワが刻まれ“おじいちゃん”先生も、オレの無茶ぶりに呆れたため息をつく。
「全く……桃花様がいとおしくていらっしゃるのはわかりますが、この爺をいつまで心配させるおつもりですか」
「すまない……だが、後悔はしない」
立木の嘆きも心労も申し訳なく思うが、どうしても桃花の熱が下がり目が覚めるまで離れられなかった。わがままですまない、と小さく呟いて護衛とともに病院を後にした。