Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
マンションに帰ってきた途端、桃花に鉢合わせをした。ずっと彼女の事を考えていたから、咄嗟に言葉が出ない。
桃花はどこかに出掛けるんだろう。普段は見ないワンピースとコートを着込んでいた。 その姿が可愛くて正視出来ないまま、彼女の横を通り過ぎる。
けれど、何も言わないままだと情けない。挨拶をして、ついでに軽い雑談くらいは……と考えて顔を上げた瞬間、桂木の挑発的な瞳を見た。
(桃花さんは渡しませんよ)
――そんな熱の籠った挑み掛かる目をした桂木を見るのは初めてだ。今までどんなに熱望しても諦めてきたヤツが、本気で欲しいと願った女がオレと同じだとは。
(だが……オレだとて諦めてやるつもりはない。桂木がどれだけアピールしようが、必ず桃花の心を手にしてみせる)
けれど、桂木はもう行動を始めている。桃花を連れ出すのはパーティの支度が口実だろうが、確実に手にする算段を考えているだろう。
「お帰り、雅幸。僕は水科さんと出掛けて来るから、留守番を頼んだよ」
「……ああ」
桂木がニッコリとそう告げると、オレは短い返事をしただけでショートブーツを脱ぎ始めたが。桃花がこちらへ駆け寄って来るなど予想外だった。