Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



桃花はその場でしゃがんでオレの足首に手を添えた。


「これ、まさかあの時の怪我ですか?」

「……」


答えられる訳がない。正直に話したところで、彼女が責任を感じて負い目を持つだけだ。

悲しませたりそんな思いをさせるために、怪我をしてまで桃花を助けたのではない。ただ彼女を助けたい一心で勝手にしたこと――いわば自己責任というやつだ。


「ご……ごめんなさい! 怪我をしていたなんて、全然知らなくて。あの……なにか不自由な事があるなら、お手伝いしますから」


ああやっぱり、と心が沈む。こんな顔をさせたくて、そんな事を言わせたくて助けたんじゃない。もっともっと、笑って欲しかっただけ。あの日、雪の中で見せたひまわりみたいな笑顔を。


(オレだと無理なのか……他の男だったら、その笑顔を見せてくれるのか)


胸の奥が冷えていき、彼女が桂木と出掛けるという現実が重くのし掛かる。ヤツはオレと違ってそつなく桃花をエスコートできるだろう。オレと違って……。


「いらない」


冷淡に聞こえてしまっただろうが、自分の不甲斐なさを実感した今は余裕など欠片もない。思わず「邪魔」と桃花を押し退けてしまった。


「これはオレが勝手に負った傷だから、アンタには何の関係もない」

「で……でも。あ、それなら。今日帰って来たらサラダ作りますね」

「……別に、どうでもいい」


情けないが、桃花をまともに見られない。胸に渦巻く熱いたぎりを悟られないために。


あのままだと、きっと桃花に持てる限りの熱情をぶつけてしまっただろう。心が手に入らないのに、体だけでもと。最低な行動を取ろうとする衝動を抑えるのに必死だった。


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