Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「……桂木だけでは足りないというわけか?」
「ち、違います! 私は最初から……桂木さんは」
桂木は藤谷に気を寄せたようにも見えたが、桃花はその様子を切なげに見つめていた。
やはり、桃花は桂木に惹かれていたのか? 元からの疑念が膨らみきって、苛立ちを隠さぬままに彼女を追い詰める。
他の男など、一切見るな。ずっとオレの腕の中に閉じ込めて……いいや。やはりこのままヴァルヌスの王宮に連れ込み、閉じ込めてしまおうか。そうすれば、一切他の男を見たり見られたりがなくなる。
「違います……違う! わ、私は……桂木さんをす、好きなわけじゃないのに……」
桃花の茶色い瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。ああ、やっぱり……君は嘘つきだ。自分の気持ちにすぐにフタをして、オレには何も見せてくれない。見せようともしない。
「嘘つきなアンタの言葉を、どうやって信じればいいんだろうな?」
「嘘つきって……私は嘘なんてッ」
嘘つき。その言葉がとっくにウソだと気づいてない君は、本気でたちが悪い。
ここまでひとを虜にしておいて、何も知らぬふりをして。どれだけの男を誘惑し続けるんだ。
衝動的なものだった。彼女の唇にキスをしたのは。
「ああ、やっぱり嘘をつく唇は塞いじゃえばいいんだ」
「……っ」
このまま一生キスを続ければ、オレを拒む言葉も言えないだろう。そんなバカなことを考えているオレも、大概どうかしてる。
やがて気を失うまでその唇を貪ったオレは、彼女を抱きしめて願った。
「桃花……ヴァルヌスに来てくれ、自分の意思で。オレは待っている」