Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



「Sie sind charmant……」


寝惚けたふりをして、ドイツ語で桃花に抱く感情を告げる。彼女が基本を理解していれば解ってしまうであろう、単純な言葉だ。


(君はとても魅力的……そうだ、桃花。君はオレをとらえて離さない)


あの、雪の中での出逢いから。雪うさぎを見た時から。


「Ich vergesse nie unser erstes treffen」

もしも君が嫌な記憶だと忘れていたとしても、オレは昨日あった出来事のように鮮やかに思い出せる。


「Ich liebe dich.Ich habe dich lieb」


ああ、そうだ。オレは君が好きだ、愛していると言っていい。生涯の伴侶として決めたのは君だけ。もしも想いが叶わないなら、一生独身を貫きたいほどには、だ。


桃花がわからないのをいいことに、寝惚けたふりをして異国語でなら告白できるなど、どこまでヘタレなんだと己をあざ笑う。


けれど、今はこれが精一杯なんだ。面と向かって言うには、オレたちを取り囲む状況が悪すぎる。


(……桃花をオレの弱点と知ったヤツらに、そういった関係と知られるわけにはいかない)


スーパーのトラブルだけじゃない。帰国を前にして一部の反体制が不穏な動きをしているという情報もある。どこかからか、交換留学の話が漏れた。帰国直前のタイミングでのリークは不自然過ぎる。


(君を護るためにも、まだ言えない)


やはりというべきか、キスを拒まれ、しばらくはあまり話せないなと重い気分になりながらも彼女を離した。


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