Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編





桂木から連絡があったのは、夜の7時を過ぎていた。

なんでも、桃花のロッカーに入っていた制服が切り刻まれたり、ロッカー内部に絵の具や残飯がぶちまけられていたらしい。
鍵はしっかりと掛けておいたそうだから、またも施錠を解除出来る立場の人間が絡んでいる。となれば、それはおそらく夫であるフロア長だろう。


(夫が妻の犯罪を止めるどころか幇助するとは……夫婦ともども喜んで犯罪者になるとはな。私情や私怨でここまでのことをしておいて、いつまでもやりたい放題出来ると。絶対に捕まらないと考えているなら、どこまで頭の中がお花畑なお気楽夫婦なんだ)


いくら夫がある程度裁量権がある中間管理職とはいえ、それはあくまでひとつの店限定。しかも、二階のフロアだけの話。たったそれだけなのに、あたかも王の妻のように振る舞う大谷。……やつらは己の身をわきまえず、増長し過ぎた。


「桂木、オレも捜査に全面的に協力する。やつらを追い込む手伝いをしてくれ。20年――桃花を苦しめ人生を狂わせたやつらに相応しい幕切れを用意してやる」


桂木との通話を切ってから、直ぐに警察庁幹部へのホットラインを使う。ヴァルヌス王家の者のみに伝えられる、特別な直通電話だ。今回の件で大谷どもが逆恨みしてこないとは限らない。桃花の身の安全と安寧のために、先んじて連絡をしておけばいい。そう思い、オレが日本を離れてからの彼女の護衛について話をしておいた。


無論、シークレットサービスにも話を通してあるが。オレにとっては将来の王妃となる女性。VIP待遇でもおかしくはない。……今のところは、と伝えると。予定は未定ですよと相手に笑われた。


『あなたのことですからハッキリ伝えてないでしょう。ちゃんと言葉にしなくては』


来日の度に警護責任者を務めてくれた彼にまでアドバイスをされ、汗をかきながら通話を切った。


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