生意気な年下の彼
 それは、理性を保てるぎりぎりのラインだった。
 絵梨の潤んだ瞳が欲望をかき立て、彼女の柔らかい唇と甘い香りが理性を麻痺させる。
 何度も交わすキスは次第に深くなり、底の無い沼に堕ちていくようだった。
 ハマル───ハマッテイク。
 正直、自分がこんなに夢中になれると思わなかった。もっと淡白な人間だと、そう思ってた。

「ん……」

 俺の背中に回していた絵梨の手に力が入り、シャツが引っ張られたことで我に返った。
 一度距離を置くと、視線が絡んだ。
 絵梨はとろんとしたような瞳を向けているが、微かな震えが伝わる。
 俺は安心させるように微笑み、彼女の頬に触れる。

「大丈夫。これ以上はまだしないよ」
「え?」
「嫌なんでしょ?」

 でも絵梨は意外なことに、首を横に振る。

「嫌じゃない……和真くんのこと大好きだし、触れられてドキドキするけど、嫌じゃないもん。ただ、ちょっと怖いだけ。───これくらい、ね」

 絵梨が示したそれは、1センチもない距離を示した指のモノサシ。
 続いて慌てた様子で説明を加える。

「い、痛いっていうから。それだけ怖いの。……でも、和真くんとなら大丈夫だろうって思うし、和真くんにしかあげたくないし」
「ちょっとストップ───俺の方がヤバくなってきた」

 一瞬にして、頭の中が沸点に達した。
 絵梨の恥ずかしさが伝染したのか、顔も体も熱い。
 いつもからかうのは俺の方なのに、必ず最後は絵梨が上をいく。
 全く、天然にも程があるよ。

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