さくらへようこそ
忍はテーブルのうえに目線を落とすと、
「小学校を卒業した、その夜のことだったかな。

夜中に目が覚めてトイレに向かっている時に、親父とおふくろの会話を聞いちゃったんだ」
と、言った。

「その時の会話を今でも覚えてる。

卒業シーズンになると、夢に出てくるくらいだから。

“忍が無事に、ここまで育ってくれてよかった。

あいつには、20歳になるまで何も知らないままでいて欲しい”って、親父はそんなことを言ったんだ」

忍は息を吐くと、
「どう言う意味だか、さっぱりわからなかったよ。

だけど、親父が俺に何か隠し事をしているのは確かなことだった。

その時におふくろが言ったんだ。

“あの子の父親があなたじゃないと知ったら、忍はショックを受けるかも知れない。

だから、あの子が20歳になるまで黙っておきましょう。

忍が20歳の誕生日を迎えた時に、全てを話しましょう”って」
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