闇の中で束の間の夢を
「……パーティ、か」
父から貰ったタキシードに身を包み少年は静かな溜め息を漏らす。
パーティは嫌いではないが、ああいう華やかな場はどうも苦手だ。しかも父の会社主催なのだから、絶対にミスなんて出来ない。
どうしようかな、そっとベッドに腰掛けた彼は隣の部屋にいる少女へ呼び掛ける。
「ねぇ、起きてる? 」
「……………なぁに? 」
壁越しなので上手く聞き取れないが、少女は言うと微かな吐息を漏らした。
「やっぱり、このドレス素敵……。明日はこれを着て参加するんだよね」
何処となく楽しそうな声は不安よりもパーティに対する期待の方が多く、少年はその声に頬を緩める。
「……明日は、さ」
「? なぁに、よく聞こえない」
壁越しに怒ったような声が響き少年は苦笑する。すると少女は再び吐息を漏らし薄く微笑んだ。
「……明日は早いから、今日はもう寝るね。おやすみなさい」
おやすみ、そう返しベッドから立ち上がる。そしてタキシードを脱ぐとベッドに戻り頭から布団を被った。