いつもので。
洋楽のBGMが流れる店内にはわたしとあの人だけ…だからどうしたのだと言うのだろう。
ここのところ店長はこの時間に一度帰ってしまっていたし、彼もお店にいた。
ただ今日は違う。
店内にふたりきり…昨日まではたまたま他のお客様もいたからふたりきりではなかった。
でも今日は彼以外のお客様は誰もいない。
「…いつもと一緒だよね」
急にバクバクしだした心臓を静めるためにも、そう言い聞かせて大きく深呼吸をした。
いつもの砂糖を入れただけのコーヒーとミックスサンド2つをトレーに乗せて、最後におしぼりとお冷と伝票も乗せた。
一番奥のソファー席に向かう足取りはいつも通りのはずなのに重いような気がする。
彼は、この席が死角になると知っていてここを選んでいるのだろうか。
初めて来たお客様はこの席自体に気づかなかったりもするくらいわかりづらい。
「お待たせいたしました」
お仕事の資料らしきものに目を通していた彼の目がわたしに向く。
それをわかりつつも視線を合わせるのが怖くて、俯いたままトレーのものをテーブルに置いていく。
「ごゆっくりどうぞ。失礼致します」
だめだ、心臓のバクバクがおさまらない。
それどころか悪化している気がする。
早く、彼から離れなければと背を向けたとき、「おい」と声をかけられた。