いつもので。


「すず」


「え…は、はい」


「ここ、うるさい。出るぞ」


手首を掴まれて、引きづられるようにお店を出る羽目になった。


「あの、わたしまだ仕事中なんですけど」


後ろから梨麻さんがなにか言っていたけど、店長に宥められたみたい。


「優河に任しときゃいい」


「はあ…」


任せていいのかな。

というか、この人もお仕事中なんじゃ…それにどこに向かってるんだろう。


「あの…」


「とりあえず、俺の部屋に行くから」


「はい。…えっ、部屋…?」


反射的に“はい”なんて言っちゃったけど、いきなり部屋に連れて行かれちゃうの?


「…なにもいきなり押し倒すわけないだろ」


「そんなこと考えてませんっ」


そりゃ、危機感は持ったけどそうされたいわけないじゃない。


「顔、赤いけど?」


「気のせいですっ」


梨麻さんの言っていた通りかもしれない。

この人、俺様でどSで、意地悪だっ。


「もう着くから質問は着いてからな」


ふっと笑った顔を向けられて、ときめいてしまうのはなにも知らないながらにも恋をしてたから。

…梨麻さん、もう手遅れかもしれないです…。

強引だと思うし、わたしのことおまえとか呼ぶし…でもさっき“すず”って呼ばれたのは嬉しかったかも。


「…百面相」


ぼそっと呟いた声はわたしの耳にも届いた。


「見飽きないな。ニヤけたり赤くなったり」


もう、無視していいかな。

反応すればするだけ苛められる気がする。



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