恋色カフェ SS集
本物か幻影か
「ねえ、ところで……連絡してみたの?」
こちらに来ていた理英宛ての郵便物を彼女の職場まで届けに来て、店に戻ろうとビルを出る間際、後ろからそんな言葉が投げられた。
「……いや」
「どうして?」
彼女の顔には『もの凄く苦労したのに、それじゃ何の意味もないじゃない』とはっきり書かれている。俺は決まりが悪くて、理英から視線を外した。
「……今更、なんて連絡すればいいのかわからないんだよ」
「あっきれた!」
理英は周りの目を気にすることなく、そう言って盛大にため息を吐き出した。
「『メニューが新しくなりました』とかなんとか適当に書いたお店のフライヤーでも作って、まずはさりげなく連絡取ってみたらいいじゃないの」
「適当に、って……」
不甲斐ないことは自分でもよくわかっている。
これ以上痛いところをつかれたくなくて、俺は曖昧に返事をしてごまかし、今度こそビルを後にした。