足首の長い髪
しばらくすると、 皐月はまだ暗黙の中にいた。

(ここは・・・)

「ここに来ちゃ・・・いけないよ」

振り向くと サラサラとしたストレートの前髪の男の子が自分を見つめている。
不思議と怖くなかった。

(かっこいい・・・)

頭の中で のん気にも そんな事を考えていた。

でも、 彼はどこか 頼りなく、 そして 水の波のようにゆらゆらと
絶えず動いているようで、

(ん? 良く見たら・・・・ 肩から下が透けて・・・?)

軽いショックを覚えて佇んでいる皐月に、男の子は気にもとめず話つづける。

「左足を 見てみて・・・」

「左足?」
(さっきからツリそうでつらない、この足かぁ?)

体をくの字に折りまげて足元を伺うと・・・

白くて細い・・・ 綺麗な指が、がっちりと皐月の足首を握り締めていた。

手の持ち主の顔は・・・・・暗がりで見えない。

下へ 下へ・・・ 引っ張ろうとしているのか、体全体は皐月よりも奥底にあり、
手だけを上へ伸ばして皐月の足首を掴んでいる。

指のなまめかしさと、 時々動いて握り治す仕草が生生しくて
皐月は 再び意識を失ってしまった。


何も見えない暗闇から

ただ、 手の持ち主の感情だけが 泡のように下から舞い上がってきて

それが女性であること、

皐月の目の前に写っていた 彼に執着していること、

そして自分に対して明らかなる悪意を持っていることがハッキリと判った。

「なっなんでぇ?」

「私 な・・・なにも・・・」

「皐月? 皐月! 大丈夫?」
「皐月さん、 もう大丈夫だから 起きなさいっ」
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