強引上司のターゲット
結局、返せなかった。

あたしは会社からの帰り道を歩きながら、どうしたものかと考えていた。

目が合ってからは、極力課長を見ないようにした。そしたらなんと、いつの間にか外出していてもう会社には戻らない予定になっていたのだ。
今日の様子じゃ、渡す時間なんて全然ない。

それにしたって…目が合ったからってあんな顔されたんじゃ周りになんて思われるかわかんないじゃない。
そもそも、目が合えば誰にでもあんな笑顔見せてるのかな。


……。


はっっ!!?
今、胸がもやっとした。いや、したか?
いやいやいや。
なんであたしが。

その後ろめたさに目をキョロキョロさせていると、視界の隅に一瞬映った人。
心が気づくより前に目で追っていた。

あたしが一ヶ月前まで一緒にいた、好きだった人だ。

楽しそうに笑う彼の隣には、スレンダーな女性がいる。



悲しい。
寂しい。



あたしはまだ、彼を忘れられない。
だけど彼は、もう新しい幸せを掴んでるんだ。

こみ上げて来る感情が、あたしの目から涙になって溢れる。一歩も動けないまま、どんどん溢れる涙に勝つこともできずに嗚咽が漏れそうなのを必死で堪えるだけだった。
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