強引上司のターゲット


「なっ!なななな!なん、なん!」


この状況は一体なにっ?!!

どういうことかと問い詰めたくても、顔が課長の胸に押さえつけられてこもった声しか出てこない。


こんな…、こんな道の真ん中で!
しかもオフィス街の帰宅ラッシュ中に!

課長のスーツ以外何も見えないという状態で通り過ぎる人達の視線から逃げられてるけど、どんな目で見られてるかなんて簡単に想像できる。
羞恥で顔から火が出そうなあたしは、眼球までもが熱い。


そして


課長は、あたしの耳元で囁いた。







「俺がいるから、大丈夫。」








ボンッ!と、頭が噴火した。


こんな台詞、普通なかなか言わないでしょ?ちょっとおかしいよ。
なんて心の中で笑っちゃった。

ドキドキして大変な心臓と、すっごく自信たっぷりな課長をおかしいと思う気持ちと、色々混ざっちゃったけど。

でも

不思議なくらいホッとした。


何でかなんて分からないけど、こうやって抱きしめられてることも「大丈夫」って言ってもらえたことも、あたしの心を満タンに満たしてくれる。


「…っうぅっ。っううー。」


我慢ができなくなるほど涙が出て、まるで子供のように泣いた。
こんなにたくさんの涙がどこに溜まってたんだと頭の隅で思いながら、考えてみれば、別れた後一度も泣いてなかった。


そうだ。
あたしちゃんと、泣いてなかったんだ。
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