強引上司のターゲット
「それは大変だったね、お疲れ様!」
ごめん!美穂ちゃん!
今日はちょっと美穂ちゃんの話し聞く余裕ないんだ、と、心の中で謝りながらさっさと着替えを始めて話を終わらせた。
つもりだった…
「それがぁ!なんと課長と一緒だったんですよぉ〜!」
え。
今なんて?
「昨日ちょっとだけ遅くなってぇ、帰ろうとした時私のデスクの電話が鳴って出てみたら!」
美穂ちゃんの、電話が………?
「課長だったんですっ!
急で申し訳ないって言いながら頼まれちゃってぇ〜!」
………。
「へ…へぇ……。」
言葉にならなかった…
仕事で接待に行った、それだけの事。
当たり前の事。
でも…
どうして。
…どうして?
「しかも!接待の相手がすっごく大事なお客様だって言われてたんで私なりに我慢してたんですけど〜、あのオヤジ、セクハラがひどくってっ。
そしたら、そしたらなんと!?」
充分過ぎる程テカテカの唇に、それでも重ねるグロスを持ったまま満面の笑みであたしを見る。
でも、あたしは全然笑えなかった。
「課長が言ってくれたんです
『冗談が過ぎます』って!
守ってくれたんです!私を!」
………?
守る………?
課長が、美穂ちゃんを、守る。
そっか。
課長は美穂ちゃんを守ったんだ。
きゃっきゃとグロスをブンブン振り回しながらペラペラ続く美穂ちゃんの声が、遠くから微かに聞こえていた。