強引上司のターゲット
ロッカールームから逃げ出したあたしは、そのままの足で非常階段の最上階に向かった。本当に一人になりたい時は、トイレじゃなくて非常階段の最上階が鉄則だ。


『あたしは強い、強くなる!』


自分で暗示をかけるように心を落ち着かせる。
そもそもあたしが自分で選んだことだったのに、勝手に嫉妬したりして。
こんな自分大嫌い。
最近の自分大嫌い!

いろんな嫌悪感を吹っ切るようにデスクに行って、それからずっとバリバリ働いた。

その甲斐あってか、もともと新庄さんとの約束があったから定時で上がるつもりだったけど、今日のノルマどころか来週の雑務までこなせた。



もちろん、こんなあたしを見て美穂ちゃんが何も思わないはずがない。
「デートですか〜?羨ましいですぅ!」
と探りを入れる彼女に、「違うって」と辛うじて誤魔化しながら退社した。





待ち合わせ場所は会社から数駅離れた駅の前。
朝から外回りだった新庄さんは早くから居たらしく、あたしが着くと目の前の喫茶店から出てくる所だった。


「すみません、お待たせしました。」


待たせてしまった罪悪感に弱いあたしは思いっきり頭を下げると、今まで見たこともないほどリラックスした笑顔で笑う新庄さんに、思わず…息を飲んだ。
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