好きとスキが重なった日
お会計を済ませた私達は、イタリアン料理店を出た。

出たのと同時に来た道に向かう私と、その反対方向に向かって歩く悠真。

私はその場に立ち止まり、悠真に声を掛ける。



「悠真、どこ行くの?」


「ごめん!俺今日用事あるから寄り道して帰るわ

美莉亜、気を付けて帰れよ!」


悠真は後ろを振り返らず、歩きながら手を振った。



「用事って何?

ねぇ悠真!?」



悠真とはどんどん距離があき、悠真の影が小さくなっていく…。



その瞬間、ポツリポツリと小粒の雨が空から降ってきた。
雨が私の涙みたいに、地面を点々と湿らしていく。


にわか雨だろうか?
まだ雷雨も鳴ってないから、急いで帰れば風邪引かなくて済むよね………


今日の天気予報見事当たっちゃった・・・
朝急いでいたから、折り畳み式の傘を持って来るのを忘れたし。



どうしよう。風邪だけは引きたくないよ。



そんなことを思っていると、遠くから黒い傘を差しながら誰かが走って来た。

よくその人の顔が、薄暗くて遠いいから見えない。


悠真なのかな・・・?



だんだん近づいてくるその人影。
その間も、私は雨に濡れている。
髪が少しべちょべちょになった。

髪から滴る水が、涙みたいに頬を濡らす。



「美莉亜…これ使えよ!
俺は大丈夫だから」



この声は…悠真?
悠真が私の頭の上に、優しく傘を被せてくれた。

傘のスティックを私に差しのべる悠真。



「ダメだよ!悠真が風邪引いちゃうもん!
一緒に帰ろう?」


「俺は本当に大丈夫だから
ごめん、今日は一緒に帰れない…」


「でも・・・」


「俺に甘えろよ」



そう言った悠真は、私に無理矢理傘のスティックを握らせ、パーカーのフードを被り走り去ってしまった。

"俺に甘えろよ"

それが女子を口説く、口説き文句にも聞こえた。



悠真………


悠真に女がいる訳ないもんね・・・




肩をくすめながら私は一人来た道に戻り、家に帰宅する。

悠真が貸してくれた、傘のスティックのまだ温かい部分の温もりを感じながら。






 
一人ってこんなにも孤独で寂しいと思ったのは…



中学生以来かもしれない。


誰かが傍にいるって、こんなにも幸せなんだ。
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