不機嫌主任の溺愛宣言
「そうですか。では【Puff&Puff】の従業員にはそのように指導しておきます」
伏目がちな瞳をゆっくりと1度まばたきさせてから、忠臣はキチリとスクェアフレームを直しながら言った。
反論したい言葉は山ほどある。【Puff&Puff】は、長時間並んでくれた客に一声掛ける丁寧な接客がリピート率の高さに結びついていること。それは決して無駄なお喋りや、待っている他の客を不快にさせる長さのものでは無いこと。
けれど、『貴方の可愛い子猫ちゃん』などと揶揄した梓にそう反論したところで、『恋人だからって判断が盲目になってる』と返されるのがオチだ。
忠臣は胃がむかつく程の不快感を飲み下すと、持っていた封筒から「物産展の準備状況です」と数枚の資料を梓の前に冷静に置いた。
***
「これだから女は嫌いだ」
梓が帰った後の喫煙所。忠臣は苦々しい表情でアイスブラストに火をつけ、忌々しそうに呟いた。隣の椅子に座りながら右近は、久々に煙草を吸う忠臣を見たなあと思いながら自分のスプラッシュミントに火をつける。
「上原部長のことですか?」
「ああ。何が気に食わんのか知らないが、仕事に不必要な感情を持ち込みすぎる。あの人は昔からそうだ」
まだ忠臣が副主任だった頃。梓は彼をやたらと評したり叱咤したりする事があった。どうも業務成績に関わらず感情的にそれをされているようで、忠臣は以前から彼女が苦手だったのだ。しかし、主任に昇格できたのも梓が忠臣を推したからだとも言われている。
「女の考える事は本当に分からん」
嘆きながら煙を吐き出した忠臣に、右近は横目で彼を見ながら(やれやれ)と思う。