不機嫌主任の溺愛宣言
言うか言うまいか迷って、右近は煙草の灰を1度灰皿に落としてから口を開いた。
「……上原部長って、主任のことが好きなんだと思いますよ」
「なに?」
思いっきり不機嫌な声で尋ね返されて、右近はやっぱり言わない方が良かったかなと少し後悔した。
「だから、自分の言う事を聞いてくれてる時は可愛がって、そうじゃない時は憎まれ口たたいて。主任のこと構わずにはいられないんでしょうね。今回も単にヤキモチやきに来ただけですよ。姫崎さんは災難だけど」
右近の話にそういうことかと納得しながら、忠臣はどんどん眉間に皺を刻んでいく。
「そんな下らない感情を本部長という立場に持ち込んでいいと思っているのか」
「いや、あくまで僕の予想ですから……」
恋がどれほど自分を狂わせるのかは忠臣もつい最近身をもって知ったばかりだ。けれど、だからこそ。そんな尊い想いを、いやらしく仕事に利用するのが許せない。
忠臣は気紛れな感情で部下をふりまわす梓を苦手だと思っていたが、彼女の心中を知って尚更嫌気が刺した。しかも。
「そもそも上原部長は既婚者だろう。配偶者以外にそんな感情を持つこと自体おかしい」
その事が生真面目な忠臣をますます嫌悪させる。
「だから、よけいに主任に絡んでくるんですよ」
けれど、右近はまるで恋愛のエキスパートのようにこの不快で不可解な問題を解明し始める。
「どういう事だ?」
たまらず尋ねた忠臣に、右近は煙草の火を消すと、持っていた缶コーヒーのプルトップを開けてから答えた。