不機嫌主任の溺愛宣言
忠臣が喫煙者だという事は一華もなんとなく知っていたが、彼が煙草を吸う姿を目の当たりにしたのは初めてだった。一華に気遣っているのもあるのだろうが、そもそも彼女といる時にわざわざ煙草を吸いたいとは思わなかったのが忠臣の心情だ。
なので。一華は少し驚くと共にちょっとだけ不満にも思う。何かと健康的な趣向の彼女は、あまり煙草が好きではないのだ。一緒にいる時に吸われるのはなんとなく気持ち良くない。
そんな彼女の心中をどこか察したのか、忠臣は一華に声をかけられ振り向くと、手にした灰皿であわてて煙草をもみ消した。
「すまない、煙が掛かったか?」
「大丈夫ですけど」
一華がくるりと背を向けると、忠臣もそれを追って部屋に戻る。ストンとソファーに腰を降ろしたパジャマ姿の彼女を抱きしめようとしたが、なんとなく不満そうな表情をされてることに気付いて忠臣の動きが止まった。
「何か……怒っているのか?」
「べつに」
「もしかして煙草が嫌いか?」
「べつに、個人の趣向ですから気にしません。ただ、煙草をくわえてるとキスしたくても出来ないなあって思っただけです」
一華が唇を尖らせ拗ねたように言った0、5秒後。忠臣は目にも止まらぬ速さで持っていた煙草とライターをゴミ箱へ突っ込んだ。
「な……何も捨てなくても」
あまりの素早い行動に一華が目をまんまるくして言うと
「君があまりにも可愛い事を言うからだろう」
と、赤い顔をした忠臣がたまらないと云った様子で抱きしめてきた。一華の方からキスをしたいと思ってくれていたのに、煙草なんかでみすみすチャンスを逃すなんて俺は阿呆か、と反省しながら。