不機嫌主任の溺愛宣言

ソファーで一華の華奢な身体を抱きしめ頬や額にキスを落とせば、忠臣の心はすぐさま幸福感で満たされる。彼にとって一華の存在はもはやかけがえの無いものだった。

その想いがどれほどのものか、この忠臣の住む1LDKのマンションにもそれは如実に現れている。

落ち着いた雰囲気を好む忠臣らしく、ダークブラウンで統一された部屋。無駄な物が無くシンプルでビターな空間に、一華が訪れるようになったその日からスモーキーカラーのインテリアが増えるようになった。

彼女の足を痛めぬよう敷かれた毛足の長い柔らかなラグ、低反発のさわり心地の良い一華専用のクッション。彼女のためのスリッパは3シーズン用と冬用の2足が用意され、もちろんティーカップにマグカップまでもが新たに買い揃えられた。

ダイニングには花瓶いっぱいの花が飾られ、リビングのカーテンまで爽やかなペールブルーに様変わりする。それらの全ては当然、忠臣が彼女に心地好い空間を提供しようと努力した形だった。

それを見たとき一華は『同棲するんじゃあるまいし、やりすぎです』とツッコミたかったが、全ては彼の不器用な愛と真心故なのだと思うと口には出せなかった。

今や、ダークカラーの空間にスモーキーカラーが点在するこの不思議なインテリアの部屋は、一華にとっても忠臣にとっても心地好いものになっている。

そこで密な時間を過ごし愛を育むのは忠臣には至上の幸福とも言える時間だ。

「一華……愛してる」

腕の中の彼女にキスの雨を降らせながら忠臣は再び反省する。こんな幸せな時間の中で少しでもつまらない憤りに思考を割いてしまった事を。

――上原部長の思惑などどうでもいい。物産展で結果を出せばいいだけだ。それが一華を守ることにも繋がるのだから。

今は余計な事を考えずこの幸福を噛みしめようと、忠臣は堅く一華を抱きしめると麗しい唇に深いキスを落とした。
 
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