不機嫌主任の溺愛宣言

***

それから数日後。一華の誕生日を翌日に控えた日の終業後。

「姫崎さん、良かったらこれ」

従業員用のロッカールームで、一華と同じ【Puff&Puff】の販売員、中野あゆみが一華に向かってそう声を掛けてきた。

制服を脱いでいた途中の一華が目をやると、あゆみの手にはポップでカラフルな小さな花束が。どういう事か分からず一華が不思議そうな顔をすると

「姫崎さん明日お誕生日だったよね?同じ地下のお店のもので悪いんだけど、これ、プレゼント。キャンディブーケだよ」

そう言ってあゆみはニッコリと微笑み、造花と菓子で彩られた花束を差し出した。

けれど、一華はまだなんとなく腑に落ちない。

「どうして私の誕生日知ってるの?」

「やだ、忘れちゃったの?姫崎さん私と一緒に派遣登録したじゃない。その時、担当者に生年月日言ってたの覚えてたの」

中野あゆみとは仕事仲間で可もなく不可もなくやってきた。けれど、特別に仲良くした覚えも無い。

その容姿から妬まれたり恋愛のいざこさに巻き込まれることが多く、また、女々しい事を嫌う強気な性格から、一華は現在のところ同性の友達を作らないようにしていた。

中野あゆみとて例外ではない。仕事仲間とはいえ誕生日を祝ってもらうような友達になった覚えはなかったのだが。

なんだか納得が出来なくて、差し出されたブーケに手を伸ばすことを渋っていると

「私ね、前から姫崎さんともっと仲良くなりたいなあって思ってたの。だからね、これはお近付きのしるし。受け取って。お誕生日おめでとう」

あゆみは強引に一華の手をとり、そこにブーケを握らせた。

一方的に気持ちを押し付けられた気がしてあまりいい気分はしないが、正面切って『仲良くしたい』と言われプレゼントまで差し出されてるのに、無碍にするのはあまりに冷たい気がして、一華は困惑しながらもそれを受け取った。

「どうもありがとう」

「どういたしまして。姫崎さん、これからも仲良くしてね」

ブーケを受け取った一華を見ると、あゆみは幼さの残る顔を嬉しそうにニコリと微笑ませた。
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