不機嫌主任の溺愛宣言
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もしも自分に魔法が使えたら。シンデレラにも負けない優美な城を出してやりたいと思う。空いっぱいの星を箱に詰めてリボンを掛けてやりたいと思う。空駆ける馬だって8色の虹だって、彼女が欲しがるものは全て捧げてやりたい――
そんなメルヘンな思考に行き着くほど忠臣を悩ませた一華の誕生日も、ついに当日を迎える。
生憎、魔法使いでもなければ白馬の王子でもない忠臣だが、それでも彼女を喜ばせようと精一杯の準備をしてきた。そんな彼が当日、一華を招いたのは自宅マンション。正直、それを告げられたとき彼女はちょっと意外にも思った。忠臣が気合を入れていた事は気付いていたので、てっきりレストランかホテル辺りで食事なのかと予測していたのだ。
けれど、忠臣が彼の姫君に用意していたのは、予想を遥かに上回る魔法だった。
約束の時間に訪れた一華が、案内されるままリビングのドアを開ければそこには――
「わあ……!すごい!」
いつもはダークカラーの部屋が、青紫と白の花畑に変わっていた。
浅い花かごにアレンジメントされ、部屋を埋め尽くす一面のクレマチス。床いっぱいに敷き詰められ、まるで花畑。いや、悪戯な弦がところどころ手を伸ばし、部屋はクレマチスの森のようだった。
「小さいが、今日はこの部屋が……君の城だ」
“君の城”。なんとメルヘンな台詞なんだと一華は内心驚くが、確かにこの演出はそれに相応しかった。自分の好きな花に埋め尽くされたこの空間は、忠臣が全力で作ってくれた一華の城に違いない。ここまでしてくれた忠臣の想いに、驚きと喜びで一華の頬が紅潮する。