不機嫌主任の溺愛宣言

「……前園主任……」

「げ!前園さん!」

ただでさえ目尻の切れ上がった瞳を、更に不愉快に吊り上げてスクェアフレームの下から睨みつける忠臣の眼光に、一華を掴んでいた加賀の手から力が抜けた。

「ここをどこだと思ってる。派遣業者が斡旋先でトラブルとは、大したもんだな」

「いや、前園さん違うんです、これはあ……」

「お前らの揉め事に関与する気はない。ただ、やるなら他所でやれ」

冷たく低く言い放った忠臣の言葉に、加賀はヘラリと情けない笑顔を浮かべてペコペコと頭を下げた。けれど。

「いやぁ、ここではまずかったね、一華ちゃん。場所変えて話ししようか」

一華をあきらめる気は無いようで、いっしょに叱られた共犯者の体(てい)で再び彼女を車に誘おうとした。その態度に

「いい加減にして下さい!」

一華が怒りを見せようとした時だった。

「加賀。俺はお前らの揉め事には興味は無いが、ふたつだけ。お前の斡旋先への態度が最悪だという事をそちらの本部に報告させてもらう。それから、姫崎一華はお前の評価と違って優秀だから福見屋デパートとしては勤務の継続を願いたいという事もな」

忠臣の淡々とした言葉が地下の駐車場に静かに木霊した。一華も加賀も隠しようも無い驚きを顔に乗せている。

けれど、やがてその表情はハッキリと明暗が別れていった。

加賀は今度は言葉もなく頭を下げると、苦々しい顔をして逃げるように車に乗り込んで行った。

そして一華は。

「……お騒がせして申し訳ありませんでした」

加賀の車が駐車場から出て行ったのを見届けてから、忠臣に向き直って深く頭を下げた。その表情はさっきまでのこわばりは消えて何処か安堵してるようにも見えたが、可愛らしい口元が綻ぶ事は無かった。
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