不機嫌主任の溺愛宣言
「無理です」
あっさりと。それはそれはキッパリと。一華は言い切った。あゆみの乙女心などなんのそのである。
あまりのすがすがしい一刀両断に、あゆみは何が起きたか分からない顔をしている。
「担当を決めるのは私じゃありませんし。店舗リーダーが選出して主任に承認をもらい決めた事ですから、私にお願いされても無理です。それに、ブースの販売は並みの忙しさじゃありません。失礼ですけど、中野さんの手じゃ追いつかないと思います」
一華の正論が容赦ないのはいつもの事。しかし、あゆみは恋心まで打ち明けた頼み事がこんな冷徹な断られ方をするとは夢にも思っておらず、信じられないと云った表情で呆然とした。
「お気持ちは察しますけど、公私混同は辞めた方がいいと思いますよ」
最後にそう言い切って、一華はその場にあゆみを残しスタスタと去って行く。ボーゼンとしたあゆみがようやく我を取り戻すのは数分の後であった。
その日から、中野あゆみはあからさまに一華と距離を置くようになった。それも仕方の無い事だと、一華は思う。元々お互い仲良くなる気など無かったのだ。ただ、あゆみは自分のワガママを聞いて欲しくて近付いて来ただけなのだから。
この顛末を忠臣に話すべきか、一華は少し迷った。けれど、物産展を目前に控え多忙な彼の心中を乱すような事はしたくない。そう判断して一華は口を噤んだ。もしそのうち話せる機会があったら話しておこう、ぐらいに捉えて。
それにしても、同僚の中野あゆみまでが忠臣に心を寄せるとは。その事を考えると一華の心中も複雑な波をたてる。忠臣が他の女性に靡くことは考えられないけれど、もし自分との関係が周囲に漏れる事があったらやっかいな事になるなと、一華は溜息を吐いた。
しかし、その心配はこれから起こる事の予感だったのかもしれない――