不機嫌主任の溺愛宣言
――どういうこと!?どういうこと!?さっきの会話……まるで前園主任と姫崎さんが付き合ってるみたいな話だったじゃない!?
中野あゆみは驚きが抑え切れない面持ちのままロッカールームへと向かった。あまりに衝撃過ぎる現場を目撃してしまって混乱と興奮が治まらない。
そしてそれは時間が経つにつれ、怒りと悲しみを含んだショックになっていく。
自分が想いを寄せていた忠臣に、女嫌いで有名な忠臣に、恋人がいたと云う悲しみと。その相手が自分の相談を一刀両断した一華だったと云う怒り。あゆみの心はやがて忠臣と一華への明確な憎悪へと染まっていった。
――何が『公私混同は止めた方がいい』よ。自分が1番それをしていたくせに!主任も主任だわ。女嫌いなんて硬派なふりして、結局は顔だけが取り柄の女と付き合うなんて、最低な軟派野郎じゃない!ああ、腹が立つ。そんな最低な男に惚れてたうえ、寄りによって姫崎さんに恋心を暴露しちゃったなんて。きっとふたりして私を笑ってたに違いないわ!
怒りのあまりロッカールームで着替えもままならず、突っ立ったままのあゆみの瞳に涙が浮かぶ。少なからず、忠臣を本気で想っていた時期が彼女にはあったのだ。だからこそ、こんな現実が悔しくてたまらない。
あゆみが一人で涙を拭っていると。
「中野さん?どうしたの?え、泣いてるの?」
同じく午後から出勤してきたデパ地下の従業員が、ロッカールームに入ってきて驚きの声を上げた。
その従業員もあゆみ程ではないが忠臣に好意を持ち、よくロッカールームで『前園主任の話題』に黄色い声を上げていたひとりだった。
そんな人物が今ここに現れたことは、あゆみにとってはラッキーであり、忠臣と一華にとっては不運だったと言えよう。
「ちょっと聞いて下さいよ!前園主任って――」
色恋の恨み妬みは恐ろしい。それが群れになれば尚更。
今までの人生でイヤと云うほどそれらを経験してきた忠臣と一華に、過去最高の嵐が吹き荒れようとしていた。