不機嫌主任の溺愛宣言
「それはどういう事――」
「すみません!個人的な質問は後にしてもらえますか?開店時刻が迫ってるんで!」
眉間に皺を刻み尋ね返そうとした忠臣の言葉を、慌てて右近が遮る。人一倍気の利く部下の機転だったが、彼らの知らないところで拡大していた妬みの波は止まらない。
「副主任は黙ってて下さい!私は前園主任に聞いてるんです!どうなんですか主任?物産展のブースも、月間優秀店舗の選出も、姫崎さんが恋人だから【Puff&Puff】を贔屓してないって言い切れますか!?」
鈴木の口から地下食品街の朝礼に落とされた超大型爆弾発言。その場は一瞬水を打ったように静まり返り、数秒後に驚声が響き渡った。
「ええ!!ウソでしょ!?」
「い、今なんて言った!?主任が姫崎さんと?」
「【Puff&Puff】の優遇って本当なの?」
一斉にざわつき出した場を右近が「静かにして下さい!朝礼中ですよ!」と必死に否めるも効果は薄い。しかも好奇や驚きの声の合間に
「ほら、言い返せない。やっぱり本当だったんだ。主任てサイテー」
「公私混同もいい所よね。硬派気取ってたクセに従業員にちゃっかり手を出して最悪じゃない」
「姫崎さんってホント調子乗ってるよね。自分が可愛いと思って色目ばっか使ってさ。嫌な女!」
中野あゆみを始めとした忠臣や一華に妬みを持つ者の声が聞こえよがしに聞こえてくるので、朝礼の場は混乱を極めた。
忠臣はあまりに突然の窮地に立たされ状況を把握するのにしばし時間が掛かったが、渦中に困惑している顔の一華を見つけ、最高潮に不機嫌な表情で姿勢を立て直す。