不機嫌主任の溺愛宣言
忠臣は温かい紅茶をもう一口飲んでから溜息を零す。
久々に身に降りかかったやっかいな騒動。それだけでもウンザリするけれど、彼の胸を曇らせているのは他でもない大切な一華への心配だった。
「何か嫌な事を言われたり、されたりはしてないか?」
彼女にそう問いながらも忠臣は自分のふがいなさを噛みしめる。もし一華が被害にあったところで彼が踏み込める部分には限界があるのだ。事が福見屋で起きている以上、よっぽどのことが無い限り、現場主任の立場としてはおいそれと口出しは出来ない。下手に注意でもしようものなら公私混同と取られ、足元を掬われる事は火を見るよりあきらかなのだ。
守ってやりたくても、それが彼女をますます追い詰めてしまう。その現実が忠臣には歯がゆい。社内恋愛ゆえの面倒さをつくづくと噛みしめてしまう。
しかし。
「大丈夫です。影でコソコソ言ってるだけですから。何か物理的な被害があれば事務所に報告しますし、直接何か言われるような事があればきっちり反論するだけです。やましい事は何ひとつ無いんだから」
顔色の悪い忠臣とはうってかわって、一華の方はケロリとしたものだった。忠臣が手土産に持ってきてくれたタコ焼きをひとつつまみながら「美味しい。でも太っちゃうかな」などと可愛らしく顔を綻ばせている。そのうえ。
「こういうのは慣れっこですから、そんなに心配しないで大丈夫ですよ。困った事があったらちゃんと相談しますから。忠臣さんこそ、物産展控えてるのにそんなおっかない顔してちゃダメですよ」
一華はそう言って微笑みかけると、おどけるように忠臣の頭を子供のように撫でるのだった。
「一華……」
強く逞しい彼女の姿に、忠臣は胸が詰まって思わず力いっぱい抱きしめてしまう。健気で気丈な一華が心の底から愛おしい。けれど、だからこそ彼女を守りたいと強く思うのだ。自分の足で力強く立つ一華だからこそ、自分が身を盾にしてその姿を守り続けてやりたいと。