不機嫌主任の溺愛宣言

とにかく今は、噂が収まるのをじっと待つしない。結局どう考えたところで、それがふたりにとって最良の策だった。

何かコトが起きたらその都度、一華なり忠臣なりが堂々と対処していくしかないのだ。どんなに妬まれようとふたりは何ひとつ後ろめたいことはしていないのだから。

こういういざこざ自体は、一華はもちろん忠臣も慣れている。忠臣としては彼女に何かあったらと思うと胸が潰れそうではあるが、こう言った面倒ごとに関してはそれなりに耐性もあるのだ。



翌日。忠臣が出勤して事務所に入ると、先に来ていた右近がいかにも不安そうな顔を向けてきた。

「おはようございます。あの、姫崎さんの方は大丈夫でしたか?ああいう中傷の矛先って、女性の方に向きやすいから。彼女、嫌がらせとかされてませんか?」

一華は副主任の右近にとっても管轄の従業員だ。よく働いてくれる優秀な従業員でもあり、慕う上司の恋人でもある一華を、心優しい右近は本気で心配している。

そんな右近の気遣いを感じて、忠臣はふっと表情を緩めた。

「今のところは大丈夫だが、何かあったらすぐ報告するように言ってある。俺も充分に気をつけるが、問題に気付いたら右近も対処してくれ。あまり相手を刺激しないように気を付けてな」

思いのほか落ち着いた様子の忠臣に、右近もほっと胸を撫で下ろした。忠臣は自分のデスクに座るとパソコンの電源を入れながら話を続ける。

「人の噂も75日だ。所詮は他人の色恋沙汰だ、静観してればそのうち収まるだろう」

「そうですね。早く収束する事を願いましょう」

忠臣も右近も、そして一華も、そう考えていた。けれど。

問題がそんな悠長な手段では収まらないほど拡大している事を知ったのは、物産展を3日後に控えた日の事である。

< 129 / 148 >

この作品をシェア

pagetop