不機嫌主任の溺愛宣言
***
忠臣が奔走したおかげで幾らかの人員補充は出来た。しかし、それでも人手不足の解消とまではいかない。
「仕方ない。やるだけの事はやったんだ。後はいる人間でどうにか回すしかないな」
「いざとなったら僕も販売業務にまわりますよ。これでも学生時代はセールスのバイトだって経験あるんです。販売ぐらいお手の物ですよ」
物産展前日の朝。全力を尽くした忠臣と右近はそんな会話を交わしながら、朝礼に行くために事務室を出た。無駄かも知れないが、後はもう1度朝礼の場で皆に呼びかけてみよう。そう相談しながらエレベーター前までやって来た時。
ポーンと到着音の後に扉が開いたエレベーターには、驚くべき先客が乗っていた。
「……上原部長……」
「あら、おはよう」
そこには、ネイビーのパンツスーツに身を包み腕を組んで立つ上原梓の姿が。
「物産展の下見は午後からの予定だった筈では?」
エレベーターに乗り込みながら忠臣が尋ねると、梓は隣に立ち扉が閉まるのを待ってから話し始めた。
「明日からの欠勤者が相次いで問題になっているって小耳に挟んだわ。私の方には報告が来てないけどどう云う事かしら?」
その言葉を聞き、眉間に皺を寄せた忠臣の後ろで右近も困惑の表情を浮かべる。
どこの誰が余計な事を告げ口したのか。それとも梓の嗅覚がするどいのか。どちらにしろ喜ばしくは無いこの事態に、男二人の胸には暗雲が広がった。