不機嫌主任の溺愛宣言
「それは失礼しました。けれど、予定の人員数よりは少ないですが、物産展の開催、及び店舗の営業に問題が無い所まで補充の手配は済んでいます。わざわざ上原部長がお越しになって心配される程の事でもないかと」
キッパリとそう答えた忠臣だったが、梓はいかにも納得のいかない眼差しを忠臣に向けて腕を組み直す。
「前園くん、あなた何年福見屋の社員をやっているの?老舗の一流デパートが『問題ない』程度でお客様を迎えてもらっちゃ困るのよ。大型の集客が見込めるイベントで、人員を満遍なく揃え最上級の接客が出来ないなんて、福見屋の名折れもいいとこだわ」
確かにそれは正論であった。けれど、現状これ以上はどうしようもないのも事実だ。むしろ、わずか2日で20人近い欠勤をギリギリまで補ったのは大きな功労と言えよう。
しかし、それはあくまで現場の話。上から指示を出す立場の梓からは辛辣な叱咤が相次ぐ。
「欠勤者が相次いだ原因も聞いてるわ。だから私に報告したくなかったんでしょうけど」
その言葉に、忠臣はぐっと唇を噛みしめる。まるで彼が悪いと言わんばかりの言い草に反論したい事は山ほどあるが、ここでそれを口にした所で、梓の感情を逆撫でするだけだと分かっていた。
「……申し訳ありません」
例え非が無くとも、問題を指摘されれば頭を下げなくてはいけないのが社会に於ける上下の仕組みだ。忠臣は眉間に皺を寄せつつも、まっすぐ梓に向かって頭を下げた。その後ろでは右近が悔しそうな顔をして、揃って頭を垂れる。
その姿を見た梓は、大きく息を吐き出すとわずかに表情を緩め、頭を上げるように忠臣に指示した。そして、耳を疑うような話を告げる。
「今日はその件で提案があって来たのよ。物産展での責任者を表向き私が努める事にするわ。今日は朝礼で従業員達にそれを伝えにきたの。そうすれば前園主任に不満を持つ者は欠勤を取り消す可能性が高い。そうでしょう?」
「けど!!」
梓の提案に思わず口を挟んだのは右近だった。たまらず身を乗り出したが、忠臣が片手でそれを制す。