不機嫌主任の溺愛宣言

「あくまで表向きよ。業者や店舗への指示は変わらず前園くんがやればいいわ。それが今回の物産展を確実に成功させる唯一の手段だと思うけど」

梓の言葉は尤もかもしれない。しかし、表向きとは言え開催直前で責任者を降ろされると云うのは、忠臣にとって屈辱以外の何者でも無いだろう。ましてや納得のいかな過ぎる理由だ。けれども。

「物産展の失敗よりも、予め私と責任を折半する方が本部役員たちの印象もマシだわ。前園くん。私はね、これでも上司としてあなたを助けに来たつもりなのよ」

これも上司の慈悲と言えよう。本部に人手不足の問題が報告されてる以上、僅かでも売り上げが落ちれば確実にそこを責められる。結論から考えれば確かに梓の提案の方が、忠臣に対するダメージは少ないのだ。

そして何より福見屋の一社員として物産展での成功を第一に考えれば、これを受け入れない訳にはいかなかった。

「……ありがとうございます。部長の手を煩わせる事態になって申し訳ありません」

再び頭を下げる忠臣の後ろで、右近は口を引き結んで俯いた。側で忠臣の努力と苦労を見てきた分、悔しさは本人以上だったかもしれない。そしてまた、自分がなんの助けにもならない事が、右近は悔しくてたまらなかった。


***


AM9時45分。地下食品部門恒例の朝礼の時間を迎え、各店舗の従業員はいつものようにエスカレーター前のスペースに集まる。その中にはもちろん一華の姿もあった。

「おはようございます。では、朝礼を始めます」

いつものように右近の進行で始まる朝礼。けれど今日は見慣れない梓の姿がある事に、従業員たちは何かいつもと違う事を感じ取る。そして一華は忠臣と右近の表情がいつもより硬い事に、それが良くない事である予感を抱いた。

「いよいよ明日から物産展が始まります。それについて皆さんにお伝えする連絡事項があるのですが……」

手筈通り業務連絡を伝達する右近。予定ではこの後、忠臣が物産展の責任者を降りた事を発表し、そのまま梓が話を引き継ぐ予定だった。けれど。
 
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