不機嫌主任の溺愛宣言
「…………物産展での欠勤者が相次いでいる事は皆さんご存知かと思います。欠勤についてそれぞれに事情がある事は重々理解しています。でも……!どうか、もう1度欠勤の取り消しを検討してもらえないでしょうか!今まで皆で作り上げてきた福見屋デパ地下のブランドが掛かった大イベントです!その努力を無駄にしない為にも、物産展を成功させたいんです!どうか……皆さんの力を貸して下さい!!」
予定を覆し、右近は従業員達に向かって切々と訴えると大きく頭を下げた。思ってもいなかった部下の言動に、忠臣も梓も驚いて立ち尽くす。
「右近……」
自分を信頼し支えてきてくれた部下のなりふり構わない懇願に、忠臣は胸を熱くする。そして、その訴えは忠臣以外の人間にも確かに熱く響いた。
欠勤を申し出ていた数人の女性従業員が気まずそうに顔を見合わせあっている。右近の必死な姿に罪悪感が募っているのだ。
「なんか……馬鹿みたいな嫉妬で、こんなに仕事に迷惑かけちゃっていいのかな。副主任とか他の従業員に悪い気がして来ちゃった」
「何言ってるの、みんなで決めた事じゃない。姫崎さんなんかに現を抜かしてる前園主任に、少し痛い目見せようって」
「それはそうだけど……でも……」
そんな会話がヒソヒソとあちらこちらから聞こえてくる。今まで頑としてとりつくしまも無かった従業員の反抗に、僅かに揺らぎが生まれている。
それを感じ取って、忠臣も右近に次いで従業員に頭を下げ願い出ようと思った時だった。
「何と言われたって無理です!前園主任が責任者である以上、私たちは信頼して働けませんから!」
今回の首謀者でもある中野あゆみが叫んで右近に同情が集まる空気を打ち壊す。そして再び決起を高めるようにその声に賛同するものが表れた。
「そうよ!まずは前園主任が【Puff&Puff】と姫崎さんを特別扱いしてないって説明から始めるべきじゃないですか!?」
「そもそも全体責任者がひとりの従業員と付き合うってどうなんですか?公私混同だと思うんですけど!」
続々上がる忠臣への不満の声に、かぼそい同情の声は掻き消される。逆に窮地へ追い込まれ、忠臣は眉間に皺を寄せるとグッと奥歯を噛みしめた。