不機嫌主任の溺愛宣言

その場に居た者全員が目を丸くした。従業員たちも中野あゆみも、右近も梓も、一華も。

全員の注目を浴びながら、忠臣はそのまま言葉を紡ぐ。

「彼女の天使のような美貌は向上心と努力の結晶だ。両親に与えられたありのままの自分を愛し感謝するからこそ、その魅力を最大限に保とうと努力している。顔だけじゃない、頭の先からつま先まで、彼女の美しさはそうやって出来ている。自分に相応しい健康と美を追求し努力を怠らない姿の何が悪い?そんな高潔な姿に心惹かれて何がおかしい!?俺は姫崎の顔も身体も、その全てを愛している!」

今や、朝礼の場は忠臣の声以外なにひとつの物音もしなかった。ただただ、高らかに一華の魅力について述べる忠臣をポカンと全員が驚きの表情を浮かべて見つめていた。

「外見だけじゃない、一華は知性も感性も磨き続け尊いほど眩い内面も持っている。それを『顔がいいだけ』など笑止千万もいい所だ!豊かな知識と感性と、自分を信じ正義を貫ける精神の強さと、全てに於いて努力を怠らない逞しさと!俺はそんな一華だから心惹かれて止まない!

彼女の凛と気丈な姿が好きだ!偽りの無い笑顔が好きだ!気が強い彼女が俺にだけ頼ってくれる姿も最高に好きだ!可愛らしくヤキモチを妬くところも、照れると怒って見せるところも、俺を支えてくれる優しさも、全部、全部!!俺は自分の人生をかけて姫崎一華を愛してる!!それの何が悪い!?」

忠臣の溺愛宣言が、静まり返ったデパ地下に響いた。一気に捲くし立て、息を急き切らせながら忠臣は額の汗を拭うと、目を点にしている従業員を見渡し視線を伏せる。

「姫崎を贔屓してるだと?馬鹿を言え。俺が彼女をそんな薄汚い不正に巻き込むわけがないだろう。彼女の働く尊い姿に泥を塗ることは俺が許さん」

零すように呟いたあと、朝礼の場は水を打った様に沈黙を保った。

しかし、その沈黙をひとりの従業員の拍手が打ち破る。パチパチパチと、呆気にとられながらも手を打ったのは中年の男性従業員だった。
 
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