不機嫌主任の溺愛宣言
「前園主任。あんた冷たくて人間味の無い人かと思ってたけど、随分と馬鹿で人間臭かったんだな。ははは、そっちの方がずっと親近感があっていいや。俺は主任を支持するぜ」
中華惣菜店の店長を努める男はそう言って拍手を送り続けた。すると、それに釣られるように周囲からはパラパラと拍手が起き始める。
「私も、主任を支持します。いいじゃないですか恋愛。主任だってただの人間なんだもの、誰かを好きになるのも自由じゃないですか。頑張って下さい」
「私も。主任のこと正直“ミスター不機嫌”って感じで苦手だったんだけど、姫崎さんへの熱い気持ち聞いて親近感沸きました。必死で可愛いです。私も支持します」
今度は呆気に取られたのは忠臣の方だった。ただ無我夢中で反論してしまった叫びが、まさか支持されようなどと思ってもいなかったのだから。
そして、彼を支持する拍手はさらに拡大していく。
「主任だってイイ歳した男なんだ、恋人のひとりやふたり居たっていいじゃん。騒ぐ方がどうかしてるよ」
「考えてみたらあのお堅い前園主任が公私混同できる訳ないよね。それに姫崎さんが本当に頑張ってるのは分かってる事だし」
「ねえ、もう前園主任に反抗するのやめない?そっちの方が公私混同だし、妬み丸出しでみっともないよ」
そんな声と共に、場はすっかり大きな拍手に包まれた。欠勤を申し出た者でさえ周囲に否められ、俯くように拍手を送っている。
思いも寄らなかった事態に忠臣は今更ながらうろたえた。そもそも幾ら堪忍袋の緒が切れたとは言え、あんなこっ恥ずかしい事を叫ぶつもりでは無かった。一華への情熱を叫ぶうちに止まらなくなってしまったのだ。
羞恥の気持ちがどんどん募って忠臣は顔を真っ赤にしながらこめかみに汗を走らせたが
「愛の勝利ですね、主任。さ、朝礼を締めて下さい」
などと満面の笑みの右近に肩を叩かれてしまい、忠臣はキチリとスクェアフレームを直すと、ひとつ咳払いをして一歩前に進み出た。
「その……今日も1日頑張りましょう」
定型の言葉で締められた朝礼。それに、従業員がいつものように「はい!」と返し、各店舗に開店準備へと戻っていく。
その様子は昨日までのどこか険悪なものではなく、以前のように統率のある雰囲気に戻っていた。そして、その中に清清しい顔で業務に向かう一華を見つけ、忠臣はようやく安堵の溜息を吐き、密かに口元を綻ばせたのだった。