不機嫌主任の溺愛宣言



「上原部長の手をわずらわせるまでもなかったですね」

朝礼の後、黙ってその場から去り地下駐車場へ向かった梓を追いかけて、右近はその背中に声を掛けた。途端に早足で歩いていた梓の足が止まり、右近の方を険しい顔で振り返る。

「馬鹿馬鹿しい……!なんなのよ、あの茶番は!仕事の場で自分の感情を吐き出すなんて、主任の立場として許されない事よ!上層部へ報告してやるわ!」

「あなたがそれを言いますか」

激しく憤る梓の様子にも動じず、右近は苦笑を浮かべるとゆっくりと歩みを進めた。

「前園主任は普段は冷血だって言われるほど自分の感情を出さない人です。たまにはいいじゃないですか、ああいう一面も。おかげで従業員の士気は上がったし、反発してた人達も考えを改めてくれるでしょう。結果オーライですよ」

「そういう問題じゃないわ!」

「じゃあ何が問題です?姫崎さんへの愛を上原部長の前で叫んでしまった事が問題?」

右近が淡々とした語調で返すと、梓の表情がさらに険しさを帯びる。厳しく睨みつけ今にも怒鳴り出しそうな様子だったが、右近はそんな梓の前まで行くと口角を上げて微笑んだ。

「上原部長の提案は前園主任には酷だったけど、でも『責任を折半する』って言って下さった事には、きっと感謝してると思いますよ」

「……何が言いたいのよ」

「正直、前園主任はあなたの事は苦手だけど、でも嫌いでは無いと思うんです。上司として」

その言葉に、険しかった梓の表情が自嘲気味に微笑んだ。

「……私に心優しい上司に徹しろとでも言いたいの?」
 
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