不機嫌主任の溺愛宣言

「どうせ前園主任みたいに愛を叫ぶことは出来ないお立場なんでしょう?だったら、部下を可愛がって育てる上司でいましょうよ。前園主任なら必ずその期待に応えてくれますよ、部下として」

「随分生意気なこと言うのね」

腕を組み、いつもように威圧的なポーズで右近に視線を流す梓。けれど、彼はそんな上司をニコニコと微笑んで見つめ返す。

「本当ですよね、すみません。上原部長の事も前園主任の事も敬愛してる若造の戯言だと思って聞き流してください」

「今さら敬愛だなんて薄っぺらいおべっかね」

「面倒くさい人が大好きなんですよ、僕」

右近の言葉に、ついに梓の表情が苦笑に綻んだ。そして、梓はスーツのポケットからシガレットケースを取り出すと煙草を一本取り出し火を着ける。

「前園くんに言っておきなさい、始末書を提出するようにと。店長印はいらないわ、直接私に送りなさい」

「分かりました。伝えておきます」

了承と共に頭を下げた右近を見て梓は口角を上げると、そのまま背を向け自分の車へと向かって歩き出した。

その背を見送りながら右近は考える。いつあの人に地下駐車場は禁煙だって教えてあげようかなあと、優しい眼差しで。



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