不機嫌主任の溺愛宣言
「従業員のみんな、『今回の成功は愛の力ね』なんて噂してますよ。困っちゃうけど、前みたいに陰口を言われたりするよりかはずっといいかな」
クスクスと肩を竦めて苦笑いする一華だったが、忠臣はこれには引きつった笑みを返すことしか出来なかった。
あれ以来、従業員に親近感を抱かれたのは良いのだが、すっかり忠臣のイメージは“女嫌いの堅物・ミスター不機嫌”から“情熱の堅物・ミスター溺愛”になってしまっていた。相変わらず仕事には過ぎるほど真面目で厳しいのだが、それが尚更ギャップを感じて面白いらしい。
「まあ……何はともあれ悪い騒動が治まったのは良かった。一華の方もあれから嫌がらせ等は無いのだろう?」
「ええ。中野さんとも仲良くとまではいかないけど、仕事の会話ぐらいは出来てますから。元々それぐらいの距離がちょうど良かったし」
一華は相変わらず孤高の性格だが、それでも忠臣が彼女の内面をぶちまけたせいか、以前よりは周囲の雰囲気が柔らかくなった気がする。
雨降って地固まる。
福見屋デパ地下に吹き荒れた大嵐だったが、過ぎてしまえば残ったのは忠臣と一華に対する周囲の温かな応援だった。
「ところで、来月だが」
ワインを一口飲んでから忠臣は気を取り直して話題を変える。
多忙な時期が終われば季節はもう冬。12月を目前にして、忠臣は新たな課題に直面していた。それは。
「クリスマスはどこか行きたい場所はあるか?」
そう、今度は恋人達の超大型イベント、クリスマスである。一華と始めて迎えるこの聖なる夜に、忠臣は当然並々ならぬ気合を入れていた。さすがに掻き入れ時に休みを取る事はお互い難しいが、日にちをずらせば1日ぐらいゆっくり過ごす事は出来る。忠臣は一華へのプレゼントと併せてすでにあれこれ検討し始めていた。