不機嫌主任の溺愛宣言
落ち着いたダークカラーにスモーキーカラーが点在するだけだった忠臣の部屋は、一華のためのプリンセス仕様に様変わりしていた。
カーテンはついにフリル付きのレースに彩られ、、シャープなデザインだったテーブルも猫脚のオフホワイトのものになっている。リビングにあった彼好みのブラックカラーのステレオや書棚はどこかへ追いやられ、変わりにレトロで甘口なキャビネットが花いっぱいの花瓶を乗せていた。
キッチンにも一華の身長にちょうどいい高さのキャビネットが備えられ、可愛らしいアニマルデザインのタオル掛けまで用意されている。
とどめは寝室だった。シンプルでクールだったベッドルームはもう面影も無い。一華のためのドレッサーだけでなく、ベッドはふたりで寝る気満々のダブルになっておりスモーキーピンクのローズモチーフのベッドカバーが掛けられていた。もちろん縁はヒラヒラである。
一華はもし自分がここで暮らさないと言ったら、35歳の忠臣がこのベッドでひとりで寝るのかと思うと戦慄した。そんな光景はあってはいけない。
玄関からトイレまで、ありとあらゆる所が姫を迎えるための仕様に変わっていて、もはや呆然としている一華に、忠臣が不安そうに声を掛ける。
「もし君がこの部屋で毎日暮らしてくれたらと考えていたら……気が付いたらこんな事になっていた。すまない、先走りすぎた。君の好みも最大限配慮したつもりだったが、気に喰わなければ言ってくれ。模様替えをしよう」
「模様替えって……。もう!しなくて結構です!ていうか、ここまでされて一緒に暮らさない訳にいかないじゃないですか!」
叱咤混じりの了承をされて忠臣は嬉しい反面、強引すぎたかと不安にもなる。
「すまない。断れなくする為に部屋を飾った訳じゃないんだ。君を喜ばせたくて……」
「分かってます!もうっ、忠臣さんてば私を愛しすぎですよ!私、あなたの愛にいつか溺れ死んじゃいそう」
プンスカと怒った表情を忠臣に向けた一華だったが、彼女はそのまま忠臣の腕を掴むと背伸びをしてキスをした。
唇を離すと、驚いて頬を赤らめている忠臣に一華は上目遣いで拗ねたように呟く。
「こんなに愛がいっぱいの部屋で暮らすなんて……幸せな予感しかしないじゃないですか」