不機嫌主任の溺愛宣言
「ああ、構わない」
忠臣がそう言いかけた時。
「ごちそうさま。お会計お願いします」
紙ナプキンで口元を拭いながら一華が席から立ち上がった。そして、チラリと忠臣たちの方を見やってからレジに向かう。
「あれ、気付かれてたみたいですね。気を使わせちゃったかな」
右近が困ったように笑って頭をポリポリと掻いた。店員は「今、お席作りますのでお待ち下さい」と一華が去った席に向かい慌てて片付ける。そして空いた席に向かう忠臣たちと、会計を済ませた一華がすれ違おうとした時だった。
「ひとりなのか?」
会釈をして通り過ぎようとした一華の肩を掴んで、忠臣は衝動的に聞いていた。声を掛けられた一華も、それを見ていた右近も目を丸くする。
忠臣自身も、どうしてこんな行動をとったのか分からないでいる。けれど、彼女に対して湧き上がる好奇心が抑え切れなかったのだ。
しかし、驚いた顔をしていた一華の表情がみるみる不快に染まっていく。
「いけませんか?」
彼女の怒りはもっともだ。プライベートなのだから、そんな事に口出しされる筋合いは無い。けれどそれでも忠臣は食い下がる。
「いけない訳じゃない。けど、女は普通友達やなんかと食事をしたがるものじゃないのか?」
「随分と穿った偏見ですね。生憎、そんな面倒な人間関係は持ち合わせてないもので」
「……友達がいないのか?」
「悪いですか?」