不機嫌主任の溺愛宣言
“ミスター不機嫌”の異名も、今はすっかり彼女に取って代わられている。一華は眉を吊り上げ可愛い顔を目一杯不機嫌にして見せた。
「悪くない。ただどうして君ほどの女が、と驚いてるだけだ。容姿も整っているし、店の売上げを伸ばすほどのコミュニケーションスキルもある。男だって大勢言い寄って来るんだろう。なのに何故こんなところでひとり淋しく食事をしてるのか疑問に思っただけだ」
本当に不思議そうな顔をしている忠臣に、一華はキッと瞳に力を籠めて睨みつけると肩に置かれていた手を振り払った。
「ひとりで食べるのが好きなんです。それが前園主任に何かご迷惑を掛けましたか?そうじゃないのなら放っといて下さい」
可愛らしい声ながら強くそう言い切り、一華はもう一度忠臣を睨みつけてから歩き出し店から出ようとした。
引き戸を開けたその背中に、忠臣が縋るように最後に言葉を発する。
「姫崎一華…!きみは……面白い女だな」
その言葉に、扉を閉めかけた一華の手が一瞬止まったけれど、彼女の背中が振り返る事はなかった。
「……主任、どうしちゃったんですか~?いくら何でもさっきのはちょっとマズイって言うか…」
未だに一華が出て行った出入り口を呆然と眺めている忠臣に、右近が呆れたように声を掛けた。けど、忠臣は右近の声など聞こえなかったかのように微動だにしない。そして。
「……初めて……女を面白いと思った」
スクェアフレームのつるを指で持ち上げながら、感嘆のように呟いた。