不機嫌主任の溺愛宣言
――ええい、忘れろ。阿呆な欲求など忘れるんだ。大体どうして一華にセクシーランジェリーを着て欲しいなどと言い出せようか。そんな事を言い出した日には変態と軽蔑されかねないぞ。
シャワーを浴び着替えをしながら必死に不埒すぎる欲望を掻き消そうとする忠臣。しかし。
「ねえ忠臣さん、本当に誕生日のリクエスト何かないんですか?」
彼の晩ご飯を温めなおし食卓へ並べながら言った一華の言葉に、忠臣は飲みかけていたビールを吹き出しそうになった。
――そ、そうだ!誕生日だ!誕生日プレゼントと称して一華にあの下着を着てる君が欲しいとリクエストすれば……って、俺はどこまで阿呆なんだ!!
自分のあまりの下劣さに、忠臣は呆れ果てて頭を抱えこむ。それを見た一華はトレーに煮魚の皿を乗せたまま何事かと立ち尽くした。
小さく咳払いをすると一華は、おかずの皿を忠臣の前に置いてから椅子に座り正面に対峙する。
「言い辛いけど欲しい物があるんですね?」
一華がズバリ言い当てたのは、決して彼女の勘が鋭いからではない。忠臣が分かり易過ぎるのだ。まるで心を見抜かれたかのように言い当てられて、動揺した忠臣は思わずコクリと小さく頷いてしまう。口では「あ、いや、違うんだ」と否定しつつも。
「どうぞ遠慮なく言って下さい。よっぽどの物じゃない限り叶えて見せますから」
――セクシーランジェリーを着て欲しいと言う願いは“よっぽど”の部類に入るのだろうか……
一華にズイッと見据えられて忠臣の脳裏にはしょうもない疑問が一瞬よぎる。しかし、慌てて首を横に振ると
「いや、本当に違う。なんでもないんだ」
と、これ以上不埒な考えを見抜かれないよう必死に否定した。