不機嫌主任の溺愛宣言
その男、初恋
(1)
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姫崎一華はメソメソ泣かない。姫崎一華は群れたりしない。姫崎一華は男に縋らない――
――困った。と、忠臣は事務室のデスクで静かに眉間に皺を寄せる。ここ数日、姫崎一華の事が頭から離れない。ふとした思考の隙間にいつだって彼女が滑り込んでくる。こんな事は初めてだった。
朝礼の時だって売り場巡回の時だって無意識に彼女を探してる自分が居る。周囲にそれを気付かれないように何度メガネのフレームを直すふりをして視線を隠した事か。
そうして一華を目に止めながら期待してしまう。こちらを向いてくれないかと。出来る事なら何か話しかけてくれないかと。
「……俺は阿呆になってしまったのか……」
自分の思考と行動の原理が分からなくて、忠臣は大きく溜息を吐き出す。本気で何か神経系統の病気ではないかとさえ思えてきて妙な胸騒ぎまでするからたまったもんではない。
「主任、昼食行かないんですか?午後の定例会議始まっちゃいますよ」
時計の針がもうすぐ13時を指そうというのにデスクから微動だにしない忠臣を見かねて右近が声を掛けた。最近どうも様子のおかしい上司を心優しい彼は気に掛けている。
「……いらん。食欲が無い」
「どうしたんですか?最近元気ないっていうか何処か変ですよ。体の調子が悪いなら早めに医者にいかないと」
右近の言葉にやはり自分は病気なのではと本格的に心配になってくる。明日は半休をとって病院に行くべきか。
「主任はいつも頑張りすぎですから。たまには休みでもとってゆっくり療養した方がいいと思いますよ」
それもそうかもしれない。
あまりに手に余る自分の症状に、忠臣は半休でなく丸一日有休をとることを決意した。