不機嫌主任の溺愛宣言
駅前は繁華街ほどではないが、それなりに飲食店が立ち並んでいる。適当に飲める場所を探すのは容易いことのように思えた。 が。
大通りから駅へ向かうひとりのシルエットを見つけて、忠臣の目的は一瞬で吹き飛んだ。
――なんでこんな所に?
自分の目を疑いつつ、その人影にダッシュで駆け寄る。
「姫崎…!!」
忠臣に大声で呼び止められたその人影は、ビクリと肩を跳ねさせてから怪訝な顔つきで振り向いた。
上品なストライプのブラウスにハイウエストのサロペットスカートで仕事時と違い髪を下ろしている一華の姿は、いつもより更に可憐さを増してるように忠臣には見えた。ただし、表情は仕事時よりかなり険しいものだったけれど。
「……前園主任」
突然呼び止めた声の主が忠臣だと気付いても、一華の表情は変わらなかった。明らかに歓迎されてないそのオーラに、忠臣のどこかがズキリと痛む。
一瞬、声を掛けてしまった自分にも一華の反応にも戸惑った忠臣だったが、声を掛けてしまった以上は仕方ない。気を取り直して彼女の前にまっすぐに立った。
「こんな所で何をしてるんだ?君の家はこの駅だったか?」
あまりにストレートな忠臣の過干渉に、一華は嫌悪よりも驚きを示す。生徒を補導する先生じゃあるまいし。なんだこの人はと、一華はキョトンとしてしまった。
「……別に、この街に住んでる訳じゃありません。ちょっと用事があって立ち寄っただけです」