不機嫌主任の溺愛宣言
「…………すまない。ちょっとどうかしていた」
赤らめた顔で額に手を当てうなだれる忠臣の姿を、一華はポカンとした顔で見つめた。
「少し酔っていたんだ。悪いが忘れてくれ」
なんだ、酔っ払いの戯言だったのか。性質が悪い。
そう切り捨てれば済む事だったのに、一華の心はそれを躊躇する。
一回り近く年上の大人の男が、職場ではいつも不機嫌で生真面目で冷たい人間にしか思えなかった男が、あの“ミスター不機嫌”が。顔を真っ赤にして動揺してるのだ。
今まで沢山の男に口説かれたり愛を囁かれた事はあったけど、こんなにアプローチは初めてだった。いや、アプローチと言っていいかさえ分からない。
倉庫で仲裁に入ってくれた時、地下駐車場で助けてくれた時、忠臣はとても冷静で頼もしかった。なのに今の彼ときたら酒を言いワケにするほど、感情が溢れて抑え切れてないのが丸わかりだ。
カッコ悪い。いや、カッコつけようとさえしてない。……ああ、そうか。
一華はそこまで考えてはた、と気付く。そして。
「朝8時半に戸田駅で待ってます」
忠臣が慌てて取り消したはずの頼みを、受け入れた。
――この人、自分のいい所を見せようとして言った訳じゃなかったんだ。本当に私が心配で…なりふり構わず出た言葉だったんだ。
忠臣の愚直な優しさが、男の下心や計算に辟易していた一華の心を弛ませた。
「……いいのか?」
自分の耳を疑う思いで、忠臣は一華にゆっくりと目を向ける。