不機嫌主任の溺愛宣言
(2)
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「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
車が戸田駅を出発してから15分。最初の「おはよう」「宜しくお願いします」の挨拶以来、車内は沈黙を保ち続けていた。
忠臣はただ真っ直ぐ前を見てハンドルを握っている。一華は助手席からずっと窓の外を眺めている。言葉も視線も一切交わされること無く、車は黙々と福見屋デパートへと向かっていった。
「ありがとうございました」
地下駐車場に着くと、一華は待ち侘びてたかのようにシートベルトを外して車から降りようとした。まるで逃げ出したいかのようなその態度に、忠臣は口元をわずかに引きつらせる。
車から降りドアを閉める間際、気まずそうに視線を逸らせながら一華は忠臣に告げた。
「あの、やっぱりご迷惑になるでしょうから、明日からはいいです」
「なっ…!?」
途端に忠臣の顔色が一変する。伏目がちな切れ長の瞳を見開いて一華を映すその姿からは『何故!?』という動揺があからさまに見て取れた。