不機嫌主任の溺愛宣言
一華からしてみたら、忠臣のその反応こそ『何故?』である。
駅から駐車場に着くまでの無言に仏頂面。横目で窺った彼の様子はあきらかに“ミスター不機嫌”だった。
やはり昨日の台詞は酒に酔った勢いで出たものだったんだろう。朝になって冷静になった彼は一華を迎えに行く事をきっと後悔してるに違いない。『なんで俺はこんな面倒くさい事をしてるんだ』と心の声が聞こえてきそうなほどに。
忠臣の車中での態度は一華にそう思わせるには充分なものだった。何か世間話でも、とも思ったけど、あまりに忠臣がブスくれた表情をしてたから一華はそれさえも躊躇する。
そして車が着く頃には『いくら酒に酔っていたからって、自分から言い出したクセになんて態度だ』と一華の方も不機嫌を隠せなくなってきていた。
そんな経由があって、一華が明日からの送迎を断ったのは実に当然ななりゆきのように思えた。なのに。
「迷惑だと思うなら最初からこんな事を君に申し出たりしない。気にせず君は俺に送られればいい」
気持ちを立て直すように、冷静なそぶりでスクェアフレームを直しながら忠臣はそんな事を言ったりする。
一華としては訳が分からない事このうえない。
面倒だと思いつつも自分の言い出した事だから意地になってるんだろうか、そうも考えたけれど。
「明日も迎えに行くから、待っててくれ」
気まずそうな一華とは反対に、真剣に瞳を向けられて言われてしまっては、なんだか素直に従わざるを得ない。
――なんだかよく分かんないな、この人。
そんな溜息を大きく吐き出してから一華は
「分かりました。明日も宜しくお願いします」
と頭を下げ、車のドアを閉めた。